水鏡の雫 性淫姉妹

海外で研究生活を終え、日本に帰国し程なく私のもとに不可解な手紙が送られてきた。
差出人を見て信じられない気持ちで一杯になる。

そこには、１０年前に消息を絶った恩師の名前が記されていたからだ。
激しい胸騒ぎを感じた私は、急いで封を切り文面に目を走らせる。
一気に読み終えた後でソファーに横になり、ぼんやりと天井を見つめる。

「なぜ今頃…こんな手紙が？」

その翌日、険しい山道を走る一台の車があった。
運転しているのは手紙を受け取った男、下月勇治だ。
手紙にあった住所を頼りに、人里離れた山奥まで車を飛ばしてきたのだった。

酷い田舎道で、普段から車が通ることも無いのか道は荒れ果てていた。
路面は山を削っただけの砂利が剥き出しで、クネクネとカーブが多いにも関わらず背の高い木々が生い茂り視界もかなり悪い。

危険極まりない山道に注意を払いながら走り続けること二時間。
大きなカーブを曲がり切った直後、道はそこで突然終わっていた。

驚いて車を止め、何とか事無きを得る。
小さく毒づきながら外に出た直後、目の前の光景に再び驚かされた。

そこに広がっていたのは、直径１キロはあろうかと思われる巨大な穴。
垂直に切り立った崖の高さは３００メートル以上はあるだろうか？
更に彼を驚かせたのは、その中央にある離れ小島のような場所だった。

それはピッタリと穴の中心に位置し、下から垂直に伸び上がった姿はかじり取られたリンゴの芯のようだった。
その頂上は平らになっていて、四方を高い壁で囲まれた洋館のような物が建っている。

対岸からその館へと通じるのは一本の橋のみ。
丁度、自分が立っている目の前に橋の入り口があった。
それは巨大な石を積み上げただけの構造で、渡りたいと思えるような代物では無かった。

手紙を頼りに訪れてみたものの、こんな場所に博士が住んでいるのかと不安になる。
橋の前に立つと穴の底から吹き上げる強風に鳥肌が立った。

しかし、恩師である博士の安否を確認する為には前に進むしかなかった。
彼は責任感に燃え、館の入り口まで数百メートルはあろう長い橋の上を歩き出す。

この先で、人生を変えるほどの奇妙な事件に巻き込まれるとも知らずに…。