睡魔 Episode１

夜の街、それはあらゆる欲望が交錯する場所。
思いを満たそうとする人々で溢れ、独特の熱気を放っている。

そんな場所とは対照的に静まり返った路地裏で異変は起こった。
街灯の明かりすら届かない片隅、暗黒の闇が支配する場所。
突如として黒い何かが漂い始め、それはやがてゆっくりと凝縮し始めた。

まるで闇が闇を喰って成長しているかのような、そんな恐ろしい光景だった。
それは漆黒でありながら、暗黒の太陽のように光を放って見える不可思議な物だった。

それはモヤの様な状態のまま、ぎこちなく何処かに向かって移動し始めた。
不思議と愛嬌を感じさせる動きではあったが、そこから発せられる気は恐ろしく冷たく禍々しい物であった。

やがてそれは動きを止めると左右に大きく揺れ始め、次の瞬間にはパッと消えてしまった。
まるで夜の闇に溶け込むかのように忽然と！
その後、薄暗い路地裏に残ったのは風が吹き抜ける乾いた音のみであった…。

ちょうどその頃、一人の美しい女が人々の間を縫うように通りを歩いていた。
彼女の服装は夜の街に相応しい大胆なものだった。

上着はサイズが合っておらずピッタリと体に張り付き、その豊満な胸を隠すどころか逆に強調することに一役買っている。
そして短すぎるスカートからは、肉付きの良い美しい足が剥き出しになっていた。

生唾を飲み込む程の妖艶なその姿に、すれ違った者の多くは男女問わず目で追いかけてしまう有様だった。
当の本人もその視線を意識してか恥ずかしそうに俯き、その目には明らかに動揺の色が浮かんでいた。

そもそも彼女から漂う清楚な気配からして、汚れた夜の街には不釣合いに感じられた。
普通に考えれば仲間内での罰ゲーム、そう考えるのが妥当かもしれない。

事情はともあれ欲望が渦巻くこの場所では、魅力的すぎる標的に違いなかった。
それが証拠に、すでに何人もの男達が声をかけまとわり付いている。

彼女はそのどれにも応じず、下を向いたままで歩き続け必死にやり過ごしていた。
どれだけ無関心を示しても、その艶めかしい存在を消し去ることなど出来るはずもない。

やがて男達の熱気が頂点に達しようとした時、たまらず彼女はその場から逃げ出した。
人々の注目、そして欲望が自身に注がれることに耐えきれなくなったのだ。

その行動に誰もが不意を突かれ、謎の美女の姿はそのまま雑踏に消えてしまうのだった…。